書棚
『
多喜二の時代から見えてくるもの』
ー治安体制に抗してー荻野富士夫
新日本出版定価二五〇〇円(税別)
「蟹工船」ブームが続く中で小林多喜二に関する様々な本や論評・記事などが出されている。
本書は、二〇世紀前半の、戦争と抵抗のせめぎあった時代を「多喜二の時代」と称して、「今日の状況を再び『多喜二の時代』が近づいているのではないか…」「戦争のできる国家への多方面からの着実な体制整備が進行しつつある」として今日「多喜二の時代を学ぶことは、極めて現代的意義をもつ」と「蟹工船」ブームを深部から掘り下げた新たな多喜二論である。
著者は、若くから「治安維持法関係資料集」全四巻を纏めるなど、まと治安体制研究の第一人者である。
「治安維持法と現代』〇八年春季号は、三・一五大弾圧八〇周年記念特集を組み、氏の論文が巻頭を飾った。
その論文が若干加筆され、本書の第一章の最後を固めている。
第一章、小林多喜二から見えてくるもの丨「蟹工船」から見えてくるもの/「暴圧」と対峙する多喜二、第二章、治安体制から見えてくるもの丨「治安体制」の深さと広がり/戦後治安体制への継続と断絶、第三章「横浜事件」から見えてくるもの丨多喜二虐殺から「横浜事件」へ/神奈川県特高警察の暴走。
数年来の作者の関心に従って、この三つの方向から過去と現在を照射して、抑圧する側とそれに抵抗し変革を希求する側の拮抗を、多喜二「全集」書簡や当時の新聞、雑誌の報道、時には『特高月報』『特高警察関係資料集』など豊富な資料を駆使して実証してみせている。
終章での間近に迫った横浜事件再審公判への期待、敗戦後の特高警察「解体」後にも継承されてきた神奈川県警など、興味ある記述が盛り沢山で面白い。(荘)
2009年3月15日
不屈 №417 (毎月15日発行)