「派遣切り」の悪名高いT社の工場のそばの小さな居酒屋で、月末の一夜燗酒と刺身を楽しみます▼
今夜は仕事帰りのなじみの人たちと御主人の五人。やおら黄色い紙をひろげて「署名をおねがいしたいんだ」と切り出します。「小林多喜二か」とビールを干した一人が応じます▼
「戦争に反対して拷問や牢屋で苦しんだ人は数知れず、だのに政府は…」と訴えて全員に書いてもらいました▼
身内の人が戦死したとか、隣県の都市への空襲で焼け出されて「ここへ落着いたんだ」とか戦争を知らない世代の労働者も語ります。「クビはいまはつながっているが、いつどうなることか」との不安▼
「必ずこれは国会に届ける」と用紙をおしいただいて店を出ます。「気をつけて」と気遣う声をうけて冷たい夜道へ(今夜は50万分の5を果たせた)との思いで歩き出したとき、なぜか「彼らは、立ち上がった。―もう一度!」のあの小説の末尾の一節が頭をよぎりました。(K)
2009年4月15日
不屈(毎月15日発行)№418