涼子のおいしい旅 神奈川・厚木市
多喜二追想の湯 猪と「シロコロ」
神奈川県の中央部にある厚木市で、温かなおいしいものめぐり。
まずは七沢温泉へ。副都心の新宿から、電車で1時間弱。本厚木の駅前はにぎやかな繁華街ですが、そこから車で30分も西に行けば、丹沢山系の東端です。
こののどかな山あいに、都会の奥座敷・東丹沢七沢温泉郷はあります。
冬の名物は猪鍋。温泉旅館での宿泊や食事付き日帰り入浴、または周辺の食事どころでいただけます。
ぐつぐつ煮え立つみそ仕立ての鍋で、いのしし肉は、案外クセがなくてうま味たっぷり。おなかがぽかぽかです。
この日訪れた福元館は、プロレタリア文学の小林多喜二ゆかりの宿です。おかみさんが先々代に聞いたところによれば、1931年3月から1カ月ほど離れに滞在していたとか。
「多喜二さんは、縁側で小説『オルグ』を執筆中、おまわりさんの姿を見ては、原稿をトイレに捨てて裏山に隠れる。そんな暮らしだったそうですよ」
丹前のえり口から見えた、東京の警察で勾留中に拷問を受けた痛々しい傷痕。当時のおかみは野草の湿布を毎日作っては貼ってあげたそうです。
多喜二は、主人が取った山鳥やジネンジョで滋養をつけ、温泉で体を癒やしながら執筆を続ける日々だったといいます。
薄々事情を知った当時のおかみは、家族に口外を禁止しました。そして10年ほど前、多喜二について調べる女性に尋ねられたのをきっかけに、現在のおかみが初めて口を開きました。
お肌がツルツルになるアルカリ性の温泉に漬かりながら、多喜二を追想しました。
温泉場から本厚木駅への帰り道、もうひとつの名物を食べにいきました。その名も「厚木シロコロ・ホルモン」。
いわゆるシロと呼ばれる豚の大腸ですが、通常は開いてゆでたもの。ところが食肉センターが近い厚木では、新鮮な生のシロを、管状のままぶつ切りにしてお客に出します。
これを炭火で焼くと、
ぷうっとコロコロな筒型にふくらむのです。そこでシロコロ。みそダレにつけて口に含むと、ジュワッと肉汁がにじんで、おいしいこと! 思わずビールが進みます。
市内には何軒もシロコロを出す店があるので、温泉や大山登山帰りのお客さんも多いとか。他の部位ももちろん大満足の味です。
また厚木市南部の農業地帯では、イチゴ狩りが始まっています。
平たんな畑の向こうには雄大な富士山が一望。今年は良い年になりますように。
南田涼子
撮影 南田乗太
厚木のおみやげ
・とん漬け―自家製みそに漬け込んだ豚ロース肉。市内の精肉店などで買える
・アユ―相模川の漁期は6月~10月。アユ形のせんべいなど菓子類も豊富
【交通】
小田急線本厚木駅下車。厚木バスセンターから七沢行きバスで約30分、七沢温泉入り口下車で七沢温泉
【問い合わせ】厚木市観光協会℡046(228)1131
( 2012年01月29日 「赤旗」)