資源エネルギー戦略の発想の転換を
市川富士夫
昔、中学生の特に歴史の先生が、天照大神の孫のニニギノミコトが高大原(タカマガハラ)に降臨したと話された。その時、友人の一人が手を上げて、どうやって降りてきたのですか、そんな長い梯子があったのですかと質問した。先生は一瞬困った顔をしたが、これは昔から伝わっている神話ですと答えられた。
安全神話
3月11日に福島県の東京電力の福島原子力発電所で重大々事故が発生したが、この原発にも大事故は起こらないという「安全神話」がつきまとっている。神話なので科学的根拠のない思い込みであるが、そんなことで原発の危険性を甘く見ていたのかと思うと、腹が立つのは私だけではあるまい。
最近、ある原発関係者が書いた文章を読んで驚いたことがある。原発の世界では「故障」とか「不具合」という言葉は禁句だというのである。安全を売り物にしている原発において、それを疑わせるような言葉を使ってはならないということである。この文章を書いた方は原発以外から来た技術者であるが、原発に赴任してすぐに部下から「故障」という言葉を口にしないようにと云われてあきれかえり、装置は故障するのが当たり前でそれを認めなかったら技術は進歩しないと叱ったそうである。故障隠しを習慣としている原発の内面を物語るエピソードである。
翌日にはメルトダウン
福島原発の3つの原子炉は地震の翌日には燃料が溶融(メルトダウン)して、圧力容器も格納容器も破損していたことが2ヶ月も経ってから東電が発表するというお粗末さである。責任の押し付け合いを止めて少しでも早く状態を安定化して危険な状態を収束することが求められる。
それにしても、東京電力の態度は納得できない。補償についてもこのあ事故は天災なので免責されるべきだと主張したり、国が支援するのが当然のことのように国会答弁したりしている。津波被害の想定される地域であるのに十分な対策を怠ったのは人災であり、国の補償支援は東電を助けるためではなく当面の東電による補償の不足や遅延で被災者が困ることのないように支援するものである。
国民合意で発想の転換を
現在日本にある原発の大部分は軽水炉というタイプである。約50基あるが、今回の事故以来原発依存を改めるべきだとの声が強くなっている。そのためには、代替エネルギー対策と共に既存原発からの撤退スケジュールについての合意形成が重要である。後者についていえば、例えば、老朽化したもの、形式の古いもの、重大なトラブルを起こしたもの、立地条件の危険なもの、地元の住民や自治体が拒否しているもの等から先ず廃止することも考えられる。
いずれにしても、この際資源エネルギー戦略についての発想の転換が不可欠であろう。日本原子力研究所元研究員、原研労組元委員長)
2011年6月15日 不屈中央版 444号 (4)