治安維持法犠牲者の名誉を守り、顕彰するために
『和歌山県の治安維持法犠牲者』の改定めざして
その4
(4) 「裏切り者」もいた
「治安維持法犠牲者」といっても、検挙・投獄後、いわゆる「非転向」を貫いた人から、権力に屈服した人まで様々です。獄中で「転向」を申告した人を、とやかく言うつもりはありません。例えば、「起訴猶予」処分といっても、検挙の翌日や一週間後に釈放された訳ではありません。三ヵ月とか六ヵ月の長期間留置され、その間に過酷な拷問が行われているケースが非常に多いのです。そのような状況の中で、「転向」を申告したり、活動をやめたりしても、ある意味では仕方のないことだと思います。問題は、一九三三年の佐野・鍋山のように「転向声明」を公表し、必死で活動する人たちに打撃を与えたり、戦後、自由に活動できる状況になつているにも拘らず国民を裏切る行為をした者です。もっと具体的に言えば、日本共産党を除名処分になった者です。『犠牲者名簿』でこの者をどう取り扱うか、つまり『犠牲者名簿』に載せるか載せないかで、国賠同盟和歌山県本部の外まで含めて紛糾がありました。この問題の解決に四ヵ月ほど要してしまつたのです。
検挙後の状況がすべての犠牲者について分かっている訳ではないのです。中には国民を裏切る行為をした者もいるかもしれないのです。また、「裏切り者」も「犠牲者」には違いないのです。さんざん議論した結果、「『犠牲者名簿』は顕彰対象者名簿ではない。顕彰対象者は別途、個々に具体的に検討されるべきもの」とし、「国民を裏切る行為を行った者も、犠牲者であれば、裏切り行為の事実を明記し記載する」と結論づけました。
このような紆余曲折を経て、二〇〇七年三月に、予定より半年遅れで印刷・刊行となりました。一年間で完成させるという目標で取組んだため、最初から犠牲者の名簿から漏れ、情報の間違い、情報の抜けがあることは予想されたことでした。それで、今度は落ち着いた雰囲気の中で、県立図書館で再度『特高月報』を調査しなおして、情報を補強しようと考えていました。
(つづく) 調査・顕彰部 M・I
2010.11.15 不屈 和歌山県版 №231 7面