同盟歌壇 碓田のぼる選
静岡県 江川佐一
東名の崩れし土砂が落ちゆくを画面は映す今朝の地震
〈評〉高速道路が地震で崩れるすさまじさをテレビで見る。臨場感あり。
東京都 若林義文
八十代に入りて覚ゆる衰えし五体に背く短気硬直
〈評〉老いの嘆きを歌いながら、とくに結句は衰えないの意志強さ示す。
新潟県 柳川月
原爆もて大量殺人犯せしに断罪なきまま六十四年
〈評〉加害、被害の真実も六十四年の歳月と共に去るかとの無念の思い。
千葉県 高沢義人
「紅もゆる」口ずさみ法然院の森ゆけば万葉仮名の師の歌碑木影に現る
〈評〉「紅もゆる」は旧制三高寮歌。「師」とは河上肇。懐旧の思い深く。
新潟県 加茂川ハル子
「戦争は死ににいくんや」元兵士重き口開く六十四年後の夏
〈評〉心に秘めた戦争の惨状を、元兵士が語る。背後に平和への願い。
和歌山県 中平喜祥
「もの忘れ外来」という診療科ありわれもその科の一人となれり
〈評〉人ごとと思っていた「外来」に自分を見出したいまいましさか。
福井県 元山章一郎
ビラ渡し党への支持を訴える福祉軽視に怒りあつめつ
〈評〉福祉切りすての悪政への庶民の怒りにこたえる日本共産党をと。
岐阜県 和田昌三
反核の願い明確に示す党にぜひ一票をと今日も声掛く
〈評〉国際的な反核の流れと展望を示すこの党にこそと、総選挙の中で
鳥取県 大久保禮吉
ひとすじに民俗学を究めんと燃えたる君を惜しみて止まず
〈評〉「親友へのレクイエム」と附記にあった。深い敬愛の思いこめて。
大分県 渡辺幹生
朝毎に鳴きし鶯去り行きて油蝉の声烈しくなりぬ
〈評〉季節の移りゆきと共に蝉の声に情勢の厳しさを聞きとめている。
2009年9月15日不屈(毎月15日発行)№423