書棚
『遥かなる信濃』 かもがわ出版
碓田のぼる著定価2200円
いうまでもなく碓田さんは「同盟歌壇」の選者。詩歌の道には無縁の私も毎号の「不屈」のこの欄には目を通します。会員の作品への一行の評には、作者と作品への深い共感と暖い激励がこめられていて心動かされます。
貧しい小作農家に生まれ、小学校高等科、国鉄労働者、そして苦学の道をつらぬいて高校教師、同時に私学の教員組合組織に奔走するという苦難の道を歩みながら民主文学運動でも活躍されるという、まさに「時代と格闘を続けた真摯なドラマ」(赤旗9・13書評)を実感させられます。1928年生まれという、私どもと同年代の碓田さんの自伝をよみながら、強じんで多感、向学心に燃える青年時代の生き方に打たれ、かえりみて自分の怠惰の半生をひたすら恥じる気持です。
さて、かつて学テ・勤評などを日教組組合員としてたたかった私も、その日教組が特定政党支持強制のあやまりを改めぬどころか、その極限にまで落ちてしまったころ、それをきびしく叫弾してたたかった「少数の反主流派」役員の中にこの人の名があったことを地方の教組運動に従事していた私は熱い思いでみつめていたものです。
確か当時の「民主文学」のある号で、この容易ならざる事態を怒りをこめて歌に託されていたことを記憶しています。
終章の「西銀座」―およそ信濃とは縁遠い東京の華やかな街で、苦学の少年時代に野尻湖畔で出会ったドイツの少女との六十年後の再会、まさに圧巻です。「遥かなる信濃」の題名に、著者の尽きせぬ思いがこめられていることをしみじみと感じさせられます。(巽)
2009年10月15日不屈№424(毎月15日発行)