書棚
『信念と不屈の画家市村三男三』
なかむらみのる著
光陽出版社定価二〇〇〇円
本書は、歴史から忘れ去られようとしていた〝信念と不屈の画家市村三男三〞を世に蘇らせた人々の記録である。作者は、九七年に『山峡の町で』で多喜二・百合子賞を受賞した作家。わが同盟の活動家である。氏は、日本共産党創立六五周年記念文芸作品長編小説部門で入選した『恩田の人々』で、郵便局の労働組合で政党支持の自由を掲げて闘う人々をえがいて脚光を浴びた作家だ。本書では、自らが先頭に立って、戦前の暗黒の時代に不屈に闘った市村画伯の業績を掘起こし、〝治安維持法犠牲者〞の顕彰活動に奔走する人々の姿をルポルタージュ的小説にまとめた。私には久しぶりに〝一気に読み切った〞作品との出合いとなった。市村三男三は多喜二と同じ時代にプロレタリア美術運動をにない、弾圧に屈することなく労働運動にも積極的に参加し、下層労働者の姿を描き続け、戦後は、日本美術会の創立に参加して活躍した著名な画家である。三男三の生まれたところは、新潟市に合併した横越村で、市村家は江戸時代以来の名家であった。先祖に市村蜻洲という著名な絵描きが居て、子孫に画家がいることを知った市の担当者が町史に載せようと調査を始めていたところで、奇遇ともいえるなかむらさん達との出会いは劇的であった。こうして「作品を売らない画家」で有名だった三男三の数百点の遺作が処分されることもなく見事に郷里に蘇ったのである。今は、横越が生んだ洋画家として遺作展が何回も開かれ、学童の教材にも使われている。同盟の顕彰活動の成果が見事郷里に根付いたことは嬉しい。(荘)
2009年11月15日 不屈 №425 (毎月15日発行)