インタビュー「戦争する国許さない」その16、
名古屋大学教授愛敬浩二さん
「殺し殺される」深刻さ
集団的自衛権行使のための憲法解釈変更の議論では、なぜ集団的自衛権行使の解禁が必要なのか、従来の安全保障政策では何が足りないのか、政策的説明がまったく足りません。
防衛と関係なく
米国に向け発射された弾道ミサイルの迎撃の必要性が盛んに論じられますが、そもそも技術的に撃ち落とせません。
尖閤諸島の領有権の維持も日本の個別的自衛権の問題であり、日米安全保障条約第5条でも対応できる問題です。なぜ今、解釈変更が必要なのでしょうか。
一方、中国と難しい問題を抱える南シナ海で、インドネシアやフィリピンなどとの軍事的関与を強める姿勢で、「アジア版NATO (北大西洋条約機構)」創設という放浪まで出ています。日本の防衛と関係なく外国に出かけて軍事力を行使する。これこそ集団的自衛権行使の本質です。海外で自衛隊が軍事行動すれば当然厳しい反撃も受ける。本当に「殺し殺されるJ世界になっていくのです。自国の防衛と関係のない軍事力行使の解禁について、深刻な緊張感を持つべきです。
しかも解釈改憲は明文改憲とパッケージです。自衛隊員が敵前逃亡したとき、懲戒免職や現行法上の処罰などの「生ぬるい」制裁では、海外での軍事行動はとてもできません。自民党の石破茂幹事長も言うとおり、死刑判決も出せる軍事審判所が必要となり、明文改憲が必ず必要となります。96条の改憲手続き緩和から9粂改定へ進むでしょう。
平和国家という在り方は根本的に変わるのです。
「親米」示すため
自ら引き起こした歴史問題で中国、韓国との関係が非常に悪化し、安倍首相はアメリカからも批判される状況です。
この中で、「親米」であることを示し、東アジア地域で存在感を保つために、ますます忠実なアメリカの"番犬"になっていく構造を見ておく必要があります。在日米軍基地を提供し、米軍の下請けとして唯々諾々と働くことにどんどん前のめりになる。この点でも日本の利益と関係なく軍事行動に向かう大きな危険があります。
解釈改憲は、それなりに論理的に積み重ねられてきた政府の憲法解釈を壊すものです。内閣法制局という、法秩序の一貫性を維持するための専門性ある機関の権威を失墜させ、日本の統治のあり方に与える悪影響ははかり知れません。
(聞き手、中祖真一)
あいきょう・こうじ名古屋大学教授(憲法学)
(2014年04月05日,「赤旗」)