採択0.4%どまり
侵略正当化の「つくる会」教科書
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来年から中学校で使われる教科書の採択が八月いっぱいで終了し、侵略戦争を正当化する「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書の採択率は0・4%程度になることが一日、「子どもと教科書全国ネット21」の集計で明らかになりました。「つくる会」が目標としてきた10%を大きく下回るもので、同ネットなど十五団体は同日、「市民の良識と民主主義の勝利」とする共同声明を発表しました。
「つくる会」の教科書を採択したことが明らかになっているのは都県立では東京都(歴史と公民)と愛媛・滋賀両県(歴史のみ)。市区町村立では全国五百八十三地区のうち栃木県大田原市(歴史と公民)、東京都杉並区(歴史のみ)の二地区です。私立では九校が歴史と公民、三校が公民のみを採択したことが判明しています。
教科書ネットの推計ではこれらの使用見込み数の合計は、歴史が約四千八百部(採択率0・38%)、公民は約二千三百部(同0・18%)です。文科省による確定部数の発表は今月中旬以降になります。
「つくる会」は今回、10%の採択率を目標に掲げ、自民党などの事実上の支援を受けて各地で採択を狙いました。しかし、「侵略を正当化する教科書を子どもに渡すな」という世論と運動が広がり、採択を一部地域に押しとどめました。
同ネットの俵義文事務局長は「『つくる会』は政治家を使って上からの圧力で採択させようとしたが、私たちは下から、子どもにとってこれでいいのかという住民の声を広げた。運動は前回の二〇〇一年より広がった。憲法・教育基本法改悪反対の運動につながると思う」と語りました。
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■解説
■「つくる会」教科書採択ごく一部
■侵略正当化の政治的圧力を共同の運動ではねかえす
今回の中学校教科書の採択では、安倍晋三幹事長代理など自民党を中心とする政治家たちが「新しい歴史教科書をつくる会」を公然と支援しました。これは前回二〇〇一年の採択ではなかったことです。それでも「つくる会」教科書の採択がごく一部にとどまったのは、「二度とあのような戦争をしてはならない」という国民の良識が発揮された結果といえます。
日本の起こした戦争が侵略戦争だったということは戦後の国際社会の共通認識です。日本の侵略戦争を「自存自衛のため」「アジア解放の戦争」と正当化した「つくる会」教科書はこれに真っ向から反するものです。
しかし、日本政府はこの教科書を検定で合格させ、お墨付きを与えました。「日本は正しい戦争をやった」とする政治家たちが強力に「つくる会」を後押ししました。
昨年来、文部科学大臣が「つくる会」教科書を評価したり、閣僚や自民党幹部、民主党国会議員が「つくる会」の集会にメッセージを送るなど「つくる会」支援が活発化。地方議会では「つくる会」の主張を盛り込んだ請願を自民党が中心になって採択しました。地域によっては公明党、民主党も賛成しました。
社会科教育は本来、子どもが社会の主人公となるのに必要な知識を身につけ、自分で考え行動していく力を育てることが大きな目的です。一部政治家や「つくる会」の活動は、国際的にも通用しない自分たちの主張を子どもに植え付けるために教科書を利用し、教育をゆがめる行為です。
こうした動きに危機感を持った親・教師・市民・在日韓国人などが各地で「『あぶない教科書』を子どもたちに渡すな」の一点で共同。韓国の市民運動との連携も進みました。こうした運動と世論の力が政治的な圧力をはね返しました。
教科書問題はこれで終わったわけではありません。来年から使われるすべての中学教科書の記述から「従軍慰安婦」が消えました。採択からは現場教師の意見の排除が進みました。教育を本来の目的に取り戻し、侵略戦争への反省を明確にし、子どもたちに歴史の事実を伝えていく取り組みがいっそう求められています。(高間史人)
2005年9月2日(金)「しんぶん赤旗」