プ口レタリア文学運動と現代⑤
リアリズム論争にかかわるエピソード
リアリズムとは何か、いろんな定義があるでしょうが私は、写実主義とちがって「社会と人間の本質まで踏み込んだ現実を、正しく反映さすこと」だと思っています。
日本では1933年~34年にかけてバルザック全集が発刊され、「ゲーテ協会」に対して「バルザック協会」が生まれ、文学界は一種のバルザックブームが起こり、リアリズム論争も盛んになります。プロレタリア文学内では、社会主義リアリズム、いや日本では民主主義的課題があり、ソ連のような社会主義リアリズムは、まだ早いのでは……という論争がおこなわれていた。
リアリズムといえば、バルザックとエングルスを省けません。簡単に紹介します。
バルザック(1790~1850)フランスの作家。人間喜劇として90数巻、代表作に『従妹ペット』『ゴリオ爺さん』『谷間の百合』など。思想的には正統王朝派でしたから、没落していく貴族階級に同情と哀歓をもって描きます。しかし、バルザックには、肌のあわない無教養で金銭にきたないが、現実に台頭するブルジョアジー(市民階級)をも正確に描き、フランス革命以後の生きたフランス社会を見事に描いて、一般に近代リアリズム文学の父とも言われる。このことをエングルスは、「老バルザックの最大の特徴であり、リアリズムの最大の勝利」と言いました。(エングルスからマーガレットーハークネスヘの手紙)
1933年2月小林多喜二の虐殺、同12月宮本顕治の逮捕。残った指導部の動揺強まり、翌34年にコップの解散でプロレタリア文学運動は事実上終焉する。この過程で変質を合理化するのにエングルスの有名なリアリズム論が悪用される。思想や階級性などはどうでもいいのだ。リアリズムで小説を書いてればそれで良し、という訳です。宮本百合子は、最もみじめな、みっともない形で、文学における進歩性と、階級性否定の口実に使われたと評しました。
最後に近代世界文学とバルザックについての百合子の名文を紹介します。
「人間の美徳も悪徳も社会的関係によるものであることを理解したのは、19世紀の歴史的な勝利であった。……バルザックにあっては、複雑多岐な形態で各人に作用を及ばしている社会的モメントをつきつめれば、それは2つのもの、色と欲であることを観察し、更にこの2つにあって究極の社会現象のネジはほかならぬ金銭であることを結論したのは、疑いもなく他の追随を許さぬ現実探求の積極性であった。」(「バルザックに対する評価」1935年の評論)
那賀支部 H・ M昭(日本民主主義文学会会員)
不屈和歌山県版№231 2010.11.15 8面