同盟短歌 選者碓田のぼる
岐阜県和田昌三
筵(むしろ)旗掲げ舞台に駆け上がる一揆の踊りに人は息呑む
〈評〉緊張したリズム感で歌い、結句はよく収まる。
新潟県柳川月
デパートは閉店セールに賑わうという淋しきニュース聞きつつ籠る
〈評〉「聞きつつ籠る」は、状況についての作者の批判。
福井県元山章一郎
緑の風に旗なびかせつメーデーに声はずませてゆく「基地撤去せよ」
〈評〉メーデーの高揚した全体的な光景をかく歌う。
静岡県江川佐一
顔見れば「逢いたかった」と大声で妻は泣き出しわれはとまどう
〈評〉入院中の病で妻をいとおしむ思いがにじんでいる。
大分県渡辺幹生
病む妻はカーネーションを待ちている苦しき日々のすがる思いか
〈評〉花にもすがって元気になってほしいと願う作者。
北海道棟徹夫
軍刀(かたな)折り襟章砕きし八月の影灼(や)くる陽よ上官自死す
〈評〉一九四五年八月十五日、かく自裁した上官ありと。
東京都若林義文
敗戦より非戦非核を唱えきて八十七歳うごけなくなる
〈評〉「うごけなくなる」はさりげないながら万感あり。
新潟県加茂川ハル子
五年経し福知山線事故報告書原因はたったの十二行なり
〈評〉悲惨な事件も、時間に風化されていく事を批判。
和歌山県中平喜祥
蕪村の碑の梅ほころびて雀二羽毛馬の堤を飛び渡り来る
〈評〉牧歌的な、早春の田園風景の一コマである。
兵庫県岸本守
強姦の現場を見しと語りたる陸軍兵士の勇気賛へり
〈評〉戦争の加害の真実を告げることで反戦の決意を。
2010年6月15日不屈(毎月15日発行)№432