四月に亡くなった作家の井上ひさしさんの「絶筆ノート」を読んで胸を打たれました▼(最後のページ)「過去は泣き続けている―たいていの日本人がきちんと振り返ってくれないので(中略)先行きがわからないときは過去をうんと勉強すれば未来は見えてくる。瑕(きず)こそ多いが、血と涙から生まれた歴史の宝石」▼東京裁判三部作「夢の痂(かさぶた)」では、戦争責任を曖昧にしてきた戦後政治を鋭く問い、なぜ自分たちはあんなにも大量の血と涙を流さなければならなかったかを国民はもっときびしく問うべきだったとの強い思いを込めた▼最後の書き下ろしになった『組曲虐殺』では、なぜ小林多喜二が、特高の拷問による虐殺をも恐れずに闘ったかを「うんうん唸りながら」書上げたという。きっと治安維持法で三度も逮捕・投獄された実父を思い重ねて…▼「過去を軽んじていると、やがて私たちは未来から軽んじられることになるだろう」。遺言のように耳朶を打つ。(池)
2010年7月15日不屈(毎月15日発行)№433